取引先と新しいプロジェクトの話を進めるにあたり、「まずは秘密保持契約書を締結してほしい」と言われたといった事態に遭遇したことは多くあると思います。
秘密保持契約書は、秘密情報の範囲や有効期間の定め方によっては、必要以上に重い義務を負ってしまったり、逆に自社の秘密情報が十分に守られなかったりするおそれがあります。
そこで、この記事では、弁護士が、秘密保持契約書(NDA)とは何か、記載すべき項目とチェックポイントについて解説します。
本記事は2026年8月時点の法令・公表情報に基づいて作成しています。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
秘密保持契約書(NDA)とは
秘密保持契約書とは、取引や業務の過程で相手方から開示された秘密情報について、契約の目的以外に使用したり、第三者に開示したりしないことを取り決める契約書です。
英語の「Non-Disclosure Agreement」の頭文字を取って、NDAとも呼ばれています。
秘密保持契約を締結する目的
まず、秘密保持契約を締結する目的は、情報を開示する側からみれば、相手方に提供する自社の技術情報やノウハウ、顧客情報といった秘密情報が、意図しない形で外部に漏れることを防ぐことにあります。
一方で、情報を受け取る側にとっても、秘密情報の範囲や秘密情報に関する義務を明確にしておくことで、後日のトラブルを避けるという意味を持ちます。
このように、秘密保持契約書は、情報を開示する側・受け取る側の双方にとって、取引の前提となるルールを明確にする役割を果たしています。
どのような場面で締結するのか
次に、秘密保持契約書が締結される代表的な場面を紹介します。
- 業務提携や共同開発の検討を始める段階
- 業務委託契約の締結にあわせて、受託者に技術情報や顧客情報を開示する場合
- M&Aやデューデリジェンスのために、相手方に財務情報等を開示する場合
- 従業員に対して、入社時や退職時に締結させる場合
業務委託契約に付随して秘密保持契約を締結するケースも多いですが、業務委託契約書自体に秘密保持条項を盛り込む場合もあります。
業務委託契約書に記載すべき項目については、「業務委託契約書とは?必要な記載事項とチェックポイントを弁護士が解説」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
秘密保持契約書に記載すべき主な項目
では、秘密保持契約書には、具体的にどのような項目を記載すればよいのでしょうか。
秘密情報の定義・範囲
まず、契約上の秘密情報の範囲を明確にします。
この秘密情報の範囲については、「開示の際に秘密である旨を明示した情報に限る」とする場合や、「開示された情報は原則としてすべて秘密情報として扱う」とする場合があり、当事者が負う義務の重さが大きく変わります。
また、口頭で開示された情報を秘密情報に含めるかどうかも、あわせて定めておく必要があります。
さらに、以下のような例外的に秘密情報に該当しない事由についても定めておく必要があります。
- 開示を受けた時点で既に公知であった情報
- 開示を受けた後、自己の責めによらず公知となった情報
- 開示を受けた時点で既に自ら保有していた情報
- 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに取得した情報
これらの例外事由がないと、既に世間一般に知られている情報についてまで、開示を受けた側が責任を問われかねないため、秘密情報の受領者にとって重要な条項です。
目的外使用・第三者開示の禁止と例外事由
次に、秘密情報を契約の目的以外に使用することや、相手方の承諾なく第三者に開示することを禁止する条項を置きます。
秘密情報の複製の原則禁止
秘密情報について、複製することを禁止し、複製する場合には情報提供者の許可を必要とする旨の条項を追加する場合もあります。
また、複製した情報も秘密情報に該当する旨も明記するとよいでしょう。
有効期間・契約終了後の存続条項
次に、契約の有効期間と、契約終了後も秘密保持義務を存続させるかどうかを定めます。
特に、技術情報のように長期間にわたって価値を持つ情報を扱う場合には、契約終了後も一定期間、秘密保持義務や目的外利用の禁止の規定を存続させる条項(存続条項)を置くことが一般的です。
情報の返還・破棄義務
さらに、契約終了時や相手方から請求を受けたときに、開示を受けた秘密情報が記載された資料やデータを返還・破棄する義務も定める場合が多いです。
もっとも、相手方の請求を受けた時に破棄をしなければならないとすると、受領者は、急に情報の破棄を求められる可能性が生じます。
したがって、受領者側は、破棄のタイミングについて慎重に検討する必要があります。
また、データで受け取った情報については、返還ではなく削除の方法とし、削除したことを証明する書面の提出を求める例もあります。
損害賠償条項
秘密保持契約に違反した場合の損害賠償条項についても、記載する必要があります。
この条項では、特に損害の範囲について留意する必要があります。
損害の範囲の定め方については、「業務委託契約書とは?必要な記載事項とチェックポイントを弁護士が解説」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
秘密保持契約に違反した場合どうなるか
ここからは、秘密保持契約に違反した場合に、どのような法的責任が生じるのかを解説します。
契約に基づく損害賠償請求・差止請求
まず、秘密保持契約に違反して秘密情報を漏えいした場合、契約違反(債務不履行)として上記の損害賠償条項に基づき、損害賠償責任を負う可能性があります。
民法415条1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
もっとも、実際に漏えいによってどれだけの損害が生じたかを立証することは容易ではないため、契約書の中であらかじめ違約金の額を定めておく例も少なくありません。
また、情報の漏えいや目的外利用が継続的に行われるおそれがある場合には、情報提供者が、その利用や開示の差し止めを請求できる旨を契約書に定める場合もあります。
不正競争防止法による保護
次に、漏えいした情報が「営業秘密」に該当する場合には、契約に基づく請求とは別に、不正競争防止法による保護を受けられる場合があります。
不正競争防止法2条6項
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
このように、営業秘密として保護されるためには、秘密として管理されていること(秘密管理性)、事業活動に有用な情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)という3つの要件をすべて満たす必要があります。
営業秘密に該当すると認められれば、被害者は、侵害の停止・予防を求める差止請求(不正競争防止法3条1項)や、損害賠償請求(同法4条)を行うことができます。
弁護士が教える秘密保持契約書のチェックポイント
最後に、秘密保持契約書を締結する際に確認しておきたいポイントを紹介します。
秘密情報の範囲が広すぎないか・狭すぎないか
まず、情報の受領者であれば、秘密情報の範囲が広すぎないかを確認します。
範囲が過度に広いと、開示を受けたあらゆる情報について、意図せず義務違反を問われる可能性が高まります。
一方で、情報を開示する側の立場であれば、範囲が狭すぎることで、本来守りたい情報が保護の対象から外れてしまう可能性があります。
したがって、守りたい情報が秘密情報の範囲に含まれているかについて確認する必要があります。
個人情報が含まれる場合の注意点
また、開示する情報の中に取引先の顧客情報など個人情報が含まれる場合には、秘密保持契約書とは別に、個人情報保護法上の義務にも注意が必要です。
個人情報を第三者に提供する場合には、あらかじめ本人の同意を得る必要があるなど、秘密保持契約書だけではカバーしきれないルールが別途定められているため、個人情報を扱う契約では、この点もあわせて確認しておくべきです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 秘密保持契約書は口頭の約束でも有効ですか?
契約自体は口頭の合意でも成立し得ますが、秘密情報の範囲や違反時の責任について証拠が残らず、後日のトラブルを招きやすくなります。特に重要な情報を扱う場合は、必ず書面またはこれに準ずる電磁的方法で契約を締結しておくべきです。
Q2. 秘密保持契約書へのサインを拒否することはできますか?
契約は当事者双方の合意によって成立するものであり、内容に納得できない場合はサインを拒否したり、条項の修正を求めたりすることができます。特に秘密情報の範囲や有効期間について、自社にとって過度に不利な内容になっていないかを確認したうえで判断することが重要です。
Q3. 秘密保持契約書は取引の当事者どちらが作成すべきですか?
法律上、どちらが作成しなければならないという決まりはありません。実務上は、より多くの秘密情報を開示する側や、取引を主導する側が案を作成し、相手方が内容を確認して修正を求める形で進めることが多くなっています。
まとめ
本記事では、秘密保持契約書(NDA)とは何か、記載すべき項目とチェックポイントについて解説しました。
- 秘密保持契約書は、秘密情報の目的外使用・第三者開示を禁止する契約書である
- 秘密情報の定義・範囲、例外事由、有効期間、返還・破棄義務等を明記する
- 違反時は契約に基づく損害賠償・差止請求に加え、不正競争防止法による保護を受けられる場合がある
- 秘密情報の範囲が広すぎないか・狭すぎないか、個人情報を含むかどうかを確認する
秘密保持契約書は、自社に秘密を守ったり、秘密保持の範囲を明確にしたりするために重要な契約書です。
秘密保持契約書は、ひな形をそのまま使うだけでは、自社が開示する情報・受け取る情報の実情に合わない内容になりがちです。
したがって、条項ごとに専門的な検討が必要になる場面が少なくありません。
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