フリーランスとして初めて企業から業務委託の打診を受けた、あるいは外部の人材に仕事を依頼するために業務委託契約書を用意しようとしている。
その際、何を記載すればよいのか分からず不安に感じる方は少なくありません。
しかし、記載内容が不十分な契約書を交わすと、後になってトラブルに発展するおそれがあります。
そこで、この記事では、弁護士が、業務委託契約書とは何か、記載すべき項目とチェックポイントについて解説します。
本記事は2026年8月時点の法令・公表情報に基づいて作成しています。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
業務委託契約書とは
業務委託契約書とは、業務を依頼する側(委託者・発注者)と、業務を引き受ける側(受託者・受注者)との間で、業務内容や報酬、契約期間などの条件を取り決めた書面です。
「業務委託契約」という契約類型は、実は民法に直接規定があるわけではありません。
一般に「業務委託契約」と呼ばれているものは、民法上の「請負」「委任」「準委任」のいずれか、またはこれらを組み合わせた契約を指しています。
業務委託契約の契約類型
業務委託契約の性質を理解するうえでは、請負・委任・準委任という3つの契約類型の違いを押さえておく必要があります。
まず、請負とは、仕事の完成を約束し、その結果に対して報酬が支払われる契約です(民法632条)。
民法632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
システム開発や成果物の納品といった、仕事の完成が受託者の業務内容となっている場合は、請負に該当することが多くなります。
一方で、委任とは、法律行為を行うことを委託する契約であり(民法643条)、法律行為でない事務の委託については、委任の規定が準用される準委任として扱われます(民法656条)。
コンサルティングや事務代行のように、受託者が仕事の完成そのものよりも一定の業務の遂行が求められる契約は、準委任に当たると整理されることが一般的です。
もっとも、受託者の業務内容が仕事の完成を目的としているかについては、明確に判断できない場合が多く、請負なのか、委任・準委任契約なのかがはっきりとしない場合も多いです。
したがって、特に請負か委任・準委任かによって、扱いが異なる事項については、記載せずに民法の規定に頼るのではなく、契約書に明記する必要があるといえます。
筆者も、業務委託契約書を作成・レビューする際は、原則として、民法に規定されている事項でも、業務委託契約書に規定するようにしています。
業務委託契約と雇用契約との違い
次に、業務委託契約と雇用契約の違いを整理します。
雇用契約では、労働者が使用者の指揮命令に従って労務を提供し、その対価として賃金が支払われます。
これに対して、業務委託契約における受託者は、委託者の指揮命令を受けず、自らの裁量で業務を遂行する独立した事業者という位置づけになります。
したがって、業務委託契約の受託者には、労働基準法や労働契約法といった労使関係を規定する法律は、原則として適用されません。
業務委託契約書の作成は義務なのか
では、外部に業務を委託する際には、業務委託契約書を必ず作成しなければならないのでしょうか。
契約書がなくても口頭の合意だけで契約は成立する
結論として、業務委託契約書の作成は法律上の義務ではありません。
契約は、当事者双方の意思表示が合致すれば成立するのが原則であり、請負・委任・準委任のいずれについても、書面の作成を契約の成立要件とする規定はないためです。
そのため、口頭のやり取りやメール、チャットでの合意だけでも、法的には契約が成立している場合があります。
それでも契約書を作成すべき理由
もっとも、契約書がなくてもよいことと、契約書を作らなくてよいことは、まったく別の問題です。
契約書がない場合、業務範囲や報酬の金額、支払時期について「言った・言わない」の水掛け論になりやすいです。
特に、口頭では、詳細な条件について争いになることが多いです。
したがって、トラブルが生じたときに合意内容を証明することが難しくなるため、業務委託書を作成することが重要になります。
また、後述するとおり、一定の業務委託については、契約条件を書面等で明示することが法律上の義務とされている場合もあります。
業務委託契約書に必ず記載すべき項目
ここからは、業務委託契約書に記載すべき代表的な項目を解説します。
業務内容・成果物の範囲
まず、委託する業務の内容と範囲を、できる限り具体的に記載します。
業務内容について、抽象的な記載では、委託範囲があいまいとなり、追加要求のトラブルにつながりやすくなります。
また、成果物がある場合には、成果物の仕様、納品形式、納品方法、検収の基準と期間も明記しておく必要があります。
報酬の額・支払時期・支払方法
次に、報酬に関する条件を明記します。
- 報酬の額(固定報酬か、時間単価か、成果に応じた変動報酬か)
- 支払時期(月末締め翌月末払いなど)
- 支払方法(振込先、振込手数料の負担者)
- 追加業務が発生した場合の報酬の取り扱い
- 委託業務を遂行するに当たって支出した費用の取り扱い
- 契約が途中で終了した場合の報酬の取り扱い
特に、追加業務や仕様変更が生じた場合の報酬については、トラブルが多いため、明確に記載する必要があります。
契約期間・更新・中途解除の条件
また、契約期間や、期間満了時に自動更新とするか否かも定めておきます。
あわせて、契約期間の途中で解除できる場合の要件や、解除にあたって必要な予告期間についても記載しておくと、急な契約終了による混乱を防ぐことができます。
秘密保持義務・契約不適合責任
さらに、業務の過程で知り得た情報の取り扱いを定める秘密保持条項も欠かせません。
加えて、成果物の納品が予定されている契約であれば、納品した成果物が契約内容に適合しない場合の対応について定める契約不適合責任の条項も確認しておく必要があります。
この点は、受託者側にとっては契約不適合責任の範囲を、委託者側にとっては保証の範囲を左右する条項であり、重要であるといえます。
損害賠償責任
損害賠償責任についても業務委託契約書にて規律されることがほとんどです。
この、損害賠償責任を定めた条項には、損害賠償責任が発生する条件と、損害賠償責任を負う範囲を明確にします。
特に、範囲については、「通常かつ直接生じた損害」に限定することや、具体的な上限金額を定めて、責任の範囲を限定する場合が多いです。
再委託の可否
委託業務を受託者が第三者に再委託することを禁止する場合もあります。
これは、委託者は、適切な受託者を選定して委託しているため、受託者以外の第三者に委託業務を遂行してほしくないというニーズがある場合に定められます。
なお、一律に禁止するのではなく、再委託を許可制にするといった折衷案もあります。
弁護士が教える業務委託契約書のチェックポイント
ここまで、契約書に記載すべき基本項目を解説しました。
ここからは、契約内容そのものに加えて確認しておきたい、法的な注意点を紹介します。
フリーランス新法による取引条件の明示義務
委託先がフリーランス(個人事業主や、従業員を使用しない法人の代表者)である場合、フリーランス法に注意が必要です。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律3条1項
業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。
このように、フリーランスに業務委託をする事業者には、業務内容や報酬額などの取引条件を書面またはメール等の電磁的方法で明示する義務が課されています。
したがって、フリーランスに対して業務を委託する場合は、明示する必要のある事項を明示した契約書を作成することにより、フリーランス法への対応も併せて行うことができます。
参照 公正取引委員会 公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(公正取引委員会規則第三号)
収入印紙は必要か
最後に、業務委託契約書に収入印紙が必要かどうかを解説します。
印紙税法上、請負の性質を持つ契約書は「請負に関する契約書」(第2号文書)として、印紙税の課税対象となります。
また、契約期間が3か月を超え、更新の定めがある継続的な取引の基本契約書は、「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)として、1通につき4,000円の印紙税がかかる場合があります。
一方で、委任・準委任の性質が強い契約書は、原則としてこれらの課税文書には該当しないとされています。
契約書が請負・委任のどちらの性質を持つのか判断に迷う場合や、税額に不安がある場合は、税務署や税理士に確認することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 業務委託契約書はインターネット上のテンプレートをそのまま使っても問題ありませんか?
汎用のテンプレートは、業務内容や報酬体系など個別の取引条件に合わせて修正しないと、実態に合わない契約書になるおそれがあります。特に契約不適合責任や解除条件など、当事者の利害が対立しやすい条項は、自社・自身の取引内容に即して見直すことをおすすめします。
Q2. 業務委託契約は口約束でも成立しますか?
法律上は口頭の合意のみでも契約は成立します。ただし、合意内容を証明する手段がなくなるため、トラブル防止の観点からは契約書やメールなど、条件を記録に残せる形で合意しておくことが重要です。
Q3. 業務委託契約書を生成AIで作成・レビューしたものをそのまま使うことはできますか?
生成AIで作成・レビューした業務委託契約書をそのまま用いるのはおすすめしません。当然、生成AIも一定のアウトプットを出すことができるため、たたき台や、修正ポイントの視点を得るという観点からは有用です。しかし、取引の詳細な背景を反映させることは難しいですし、誤った法解釈も含まれるため、最終的な確認は必ず法律に詳しい人間が行うべきであるといえます。
まとめ
本記事では、業務委託契約書とは何か、記載すべき項目とチェックポイントについて解説しました。
- 業務委託契約は、請負・委任・準委任のいずれか、またはその組み合わせである
- 契約書の作成は法律上の義務ではないが、トラブル防止のために作成すべきである
- 業務内容・報酬・契約期間・秘密保持等の主要項目は必ず明記する
- フリーランス法の明示義務、収入印紙の要否も確認する
業務委託契約書は、ひな形を流用するだけでは自社・自身の実情に合わない内容になりがちです。
したがって、最終的には専門的な判断が必要になる場面が少なくありません。
当サイトを運営する弁護士は、業務委託契約書の作成・チェックやその他のご相談にも対応可能です。
相談を希望する方は以下のフォームからご連絡ください。
この記事の執筆者
本サイトを運営する弁護士(第一東京弁護士会所属)が執筆しています。


コメント