残業代の時効は何年?いつまで遡って請求できるかを弁護士が解説

残業代の時効は何年?いつまで遡って請求できるかを弁護士が解説 労働問題

「残業代を請求できるはずなのに時効と言われた」という経験はありませんか?

未払いの残業代には時効があり、時効が完成してしまうと、残業代を請求できなくなる場合があります。

そこで、この記事では、弁護士が、残業代請求権の時効の期間や起算点、時効を止める方法について解説します。

本記事は2026年8月時点の法令・厚生労働省公表資料に基づいて作成しています。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

残業代そのものの計算方法をまだ確認していない方は、先に「残業代の計算方法とは?計算方法や請求できる場合について解説」をご覧ください。

残業代請求権の時効は何年?

では、残業代請求権の時効は何年なのでしょうか。

原則5年、当分の間は3年(労働基準法115条)

残業代を含む賃金請求権の消滅時効は、原則5年、当分の間は3年とされています(労働基準法115条、同法附則143条3項)。

これは、2020年4月1日の労働基準法改正によるものです。

改正前は2年でしたが、民法の債権の消滅時効が原則5年に統一されたことに合わせて、賃金請求権の時効も5年に延長されました。

ただし、影響の大きさを考慮し、当分の間は3年とする経過措置が設けられています。

したがって、現時点での残業代の時効は3年で考えておく必要があります

もっとも、追って時効が5年となる可能性もありますので、最新の改正にキャッチアップする必要があります。

参考 厚生労働省 未払賃金が請求できる期間などが延長されています
参照 e-Gov 法令検索 労働基準法

2020年3月31日以前に支払期日が来た残業代は2年のまま

注意すべきなのは、この改正が2020年4月1日以降に支払われる賃金請求権から適用される点です。

2020年3月31日以前に支払期日が来た残業代については、改正前の2年の時効が適用されるため、注意が必要です。

参考 厚生労働省 未払賃金が請求できる期間などが延長されています

退職金請求権は引き続き5年

なお、退職金請求権の消滅時効については、今回の改正による変更はなく、従来から5年です(労働基準法115条)。

残業代と退職金を両方請求する場合、消滅時効にかかる期間が異なる点に留意してください。

時効はいつから進行する?起算点の考え方

次に、時効はいつから進行するのかについて解説します。

退職日からではなく「給与の支払期日」ごとに進行する

時効のカウントは、退職した日から一括で数えるものではありません

賃金の消滅時効は、権利を行使することができる時からカウントが始まるとされており、残業代は、本来支払われるべきだった給与の支払期日ごとに時効が進行します(労働基準法115条)。

つまり、古い月の残業代から1か月ごとに時効が完成していきます。

具体的な計算イメージ

例えば、毎月25日払いの会社で、時効期間を3年とする場合の考え方は以下の通りです。

対象月の残業代給与の支払期日時効が完成する日の目安
1月分2月25日3年後の2月25日の経過
2月分3月25日3年後の3月25日の経過
3月分4月25日3年後の4月25日の経過

このように、1か月ごとに時効の完成日がずれていくため、請求を先延ばしにするほど、請求できる金額の総額は減っていくことになります。

残業代の具体的な算定方法については、「残業代の計算方法とは?計算方法や請求できる場合について解説」をご参照ください。

残業代の時効を止める方法

では、残業代請求の時効が迫っている場合、どのようにすれば時効の完成を防ぐことができるのでしょうか。

民法上、時効の進行を止める方法として「完成猶予」と「更新」という手段があります。

内容証明郵便による催告(6か月間の完成猶予)

即効性があるのが、内容証明郵便による催告です。

民法150条1項
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

参照 e-Gov 法令検索 民法

つまり、会社に対して未払いの残業代を請求する内容証明郵便を送ると、その時点から6か月間は時効が完成しません

この完成猶予は、下記の更新とは異なり、時効が一から進行するのではなく、あくまでも時効が完成しないにとどまる点に注意が必要です

なお、この催告は口頭でも足りるとされていますが、証拠の保全のためにも内容証明が良いでしょう。

また、同項2号により、時効の完成猶予中に再度催告をしても、重ねて時効を延長する効力は認められていません

これは、頻繁に催告を行い、実質無期限で完成猶予が続くことを防止する趣旨です。

したがって、催告による6か月の間に、労働審判や訴訟など、次の手続きに進む必要があります

労働審判・訴訟の申立て

次に、時効を止める方法として、裁判上の請求があります。

裁判所への訴えの提起などがあった場合、その手続きが終了するまでの間は時効は完成せず、確定判決などによって権利が確定すると、時効はその時点で更新(リセット)されます(民法147条)。

なお、申立てた段階で時効が更新されるのではなく、あくまでも権利が確定した際に更新されるため注意が必要です。

労働審判の申立ても、裁判上の請求に準ずるものとして、同様の効力が認められると解されています。

労働審判の具体的な流れについては、「労働審判とは?申立てから解決までの流れをわかりやすく解説」をご覧ください。

参照 e-Gov 法令検索 民法

会社が未払いを認める(承認による更新)

また、会社が未払いの事実を認めた場合も、時効は更新されます(民法152条)。

例えば、会社の担当者が「未払い分があることは認識している」と発言した記録や、支払いを一部行った事実などが、承認にあたる場合があります。

このような発言は、後の交渉で重要な証拠となるため、メールやメモなどで記録を残しておくことをおすすめします。

時効が迫っている場合に今すぐやるべきこと

最後に、残業代の時効が近づいている場合の具体的な対応について解説します。

  1. 証拠を集める:タイムカード、給与明細、業務用メールの送信時刻など、労働時間を示す資料を確保します。
  2. 未払い額を計算する:どの月にいくら未払いがあるかを整理します。
  3. 内容証明郵便を送付する:時効完成の直前であれば、まず催告により6か月の猶予を確保します。
  4. 労働審判・訴訟を検討する:催告の6か月以内に、裁判手続きを行い、時効の更新を狙います。

証拠が十分に残っていない場合の対処法については、「サービス残業に対し残業代が出ないのは違法?残業代の請求方法について解説」でも解説していますので、あわせてご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 退職してからでも残業代は請求できますか?
可能です。時効は退職日を基準に進行するものではなく、各月の給与支払期日ごとに個別に進行します。退職後であっても、時効が完成していない月の残業代は請求できます。

Q2. 会社から「もう時効だから支払わない」と言われました。本当に諦めるしかないですか?
すべての月が時効にかかっているとは限りません。給与の支払期日を基準に、月ごとに時効が完成しているかを確認する必要があります。また、会社が一部でも未払いを認める発言をしていた場合は、時効が更新されている可能性もあります。

Q3. パートやアルバイトでも時効の考え方は同じですか?
同じです。労働基準法上の時効の規定は、雇用形態を問わず、労働者として働くすべての方に適用されます。

まとめ

本記事では、残業代請求権の時効について解説しました。

  • 残業代の時効は原則5年、当分の間は3年(2020年3月31日以前の分は2年)
  • 時効は退職日ではなく、給与の支払期日ごとに個別に進行する
  • 内容証明郵便による催告で6か月の猶予確保できる
  • 労働審判・訴訟の申立てや会社の承認により、時効が更新される

残業が時効にかかり始めると、時間が経つほど請求できる金額が減っていくという性質があります。

特に時効が近づいている場合は、内容証明郵便の送付や労働審判の申立てなど、スピード感のある対応が必要になります。

未払いの残業代に心当たりがある方は、時効が完成する前に、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

この記事の執筆者

本サイトを運営する弁護士(第一東京弁護士会所属)が執筆しています。

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