個人事業主として、成果物を納品したのに、約束の支払期日を過ぎても取引先から報酬が未払いである。
報酬について、このまま泣き寝入りするしかないのかと不安を感じている個人事業主の方も多いのではないでしょうか。
しかし、会社員の給料とは異なり、個人事業主の報酬は、自分から動かなければ誰も回収してくれません。
対応を先延ばしにしていると、消滅時効によって請求する権利自体を失うおそれもあります。
そこで、この記事では、弁護士が、個人事業主の報酬未払いへの対処法について、フリーランス法の活用を含めた、回収方法を解説します。
本記事は2026年10月時点の法令・公表情報に基づいて作成しています。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
業務委託契約書の基本的な記載事項を知りたい方はこちらをご覧ください。
個人事業主への報酬未払いに対するフリーランス法の活用
催促しても支払われない場合、取引先が従業員を使用する事業者であれば、2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス法)を活用できる場合があります。
そこで、まずは、フリーランス法の規定の概要について解説します。
支払期日は受領から60日以内、期日までの支払いが義務
まず、フリーランス法は、報酬の支払期日について、次のとおり定めています。
フリーランス法4条1項
特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
そして、発注事業者は、定められた支払期日までに報酬を支払わなければなりません(フリーランス法4条5項)。
つまり、支払期日が60日を超える場合は、フリーランス法に違反することとなり、この場合、支払期日は、給付を受領した日から60日を経過する日となります(同条2項)。
また、この60日のカウントを開始する日は、給付を受領した日である点にも留意する必要があります。
一方的な報酬減額の禁止
また、1か月以上の業務委託については、フリーランスに責任がないのに報酬を減額することが禁止されています(フリーランス法5条1項1号)。
つまり、自分に何ら落ち度のない理由で報酬を減らされた場合は、本規定へ違反することとなります。
したがって、報酬を請求した際に、一方的に報酬を減額されたり、不支給とするといった主張をされた場合は、同条により禁止されている旨を伝える必要があります。
給付の受領拒絶の禁止
さらに、フリーランス法は、フリーランスの責任がないにもかかわらず、発注事業者が、フリーランスからの給付の受領を拒むことを禁止しています(同条1項2号)。
したがって、何ら責任がないのに、給付を受領してくれず、給付を受けていないことを理由に報酬を未払いとすることは、同条に反することになります。
公正取引委員会・中小企業庁への申出
さらに、フリーランス法に違反する事実がある場合には、公正取引委員会または中小企業庁長官に申出て、適当な措置を求めることができます。
フリーランス法6条1項
業務委託事業者から業務委託を受ける特定受託事業者は、この章の規定に違反する事実がある場合には、公正取引委員会又は中小企業庁長官に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
また、申出をしたことを理由に、取引先が取引を減らしたり停止したりするなどの不利益な取扱いをすることも禁止されています(フリーランス法6条3項)。
実際に、公正取引委員会は、フリーランス法に違反した事業者に対して勧告を行い、その内容を公表しています。
令和7年度に公表された勧告は10件で、多くを、定めた支払期日までに報酬を支払わなかったことが占めています。
参考 公正取引委員会 フリーランス・事業者間取引適正化等法勧告一覧(令和7年度)
このように、支払いの遅れは行政による是正の対象として実際に扱われています。
公表は事業者にとって大きなダメージとなり得るため、申出は、取引先に支払いを促す有効な手段となり得ます。
報酬の未払いに気づいたときの初動対応
では、実際に報酬未払いに気づいたときは、まず何をすればよいのでしょうか。
支払期日と請求内容を確認する
まず、業務委託契約書などを確認し、合意した支払期日と、自分が送った請求書の内容に誤りや送付漏れがないかを確認します。
上記の通り、合意した支払い期日が、フリーランスが役務や成果物を提供してから60日を超える場合は、60日後が支払い期日となる(フリーランス法4条2項)ため、支払い期日が長すぎる場合は、確認しましょう。
また、支払期日を定めなかった場合でも、あきらめる必要はありません。
フリーランス法が適用される取引では、支払期日を定めなかった場合、発注事業者が納品物を受け取った日が支払期日とみなされます。
フリーランス法4条2項
前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。
このように、まずは、業務委託契約書などで支払期日を確認し、支払い期日が到来しているかについて確認しましょう。
業務委託契約書の記載事項については、「業務委託契約書とは?必要な記載事項とチェックポイントを弁護士が解説」にて解説しておりますので、併せてご覧ください。
記録が残る方法で支払いを催促する
次に、支払期日を過ぎても入金がない場合は、メール等の記録が残る方法で、取引先に支払いを催促します。
単なる経理上のミスであれば、この段階で解決することも少なくありません。
電話で話した場合も、話した内容や相手の回答をメールで送り直しておくと、後に法的手段を取る際の証拠になります。
この時、いきなり法的手段を匂わすような言い回しではなく、支払いはどうなっているのかについて、端的な言い回しで督促しましょう。
内容証明郵便による未払い報酬の請求
督促しても支払いがない場合は、内容証明郵便で、未払い報酬の支払いを請求します。
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の書面を送ったかを郵便局が証明する制度であり、後の訴訟等で請求の事実を示す証拠になります。
この内容証明は、実務上、法的な請求を正式に行い、交渉を開始する際に用いることが多いため、法的根拠や、これを基礎付ける事実を正確に記載する必要があります。
本記事を執筆した弁護士は、未払い報酬を回収するための内容証明の作成、交渉にも対応しておりますので、下記からご相談ください。
支払督促
次に、比較的簡易な手続きとして、簡易裁判所の書記官に支払督促を発してもらう方法があります。
民事訴訟法382条
金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができる。ただし、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。
取引先が支払督促に異議を申し立てなければ、強制執行によって財産を差し押さえることも可能になります。
この方法は、訴訟に比べ、簡易的な手続きで、債務名義を取得することができるというメリットがあります。
もっとも、相手方から、適法な督促異議が出た場合には、原則として訴訟に移ります。
少額訴訟・通常訴訟
また、請求額が60万円以下であれば、原則として1回の期日で審理を終える少額訴訟を利用することもできます。
民事訴訟法368条1項
簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数を超えてこれを求めることができない。
この少額訴訟は、原則として一回の期日で審理が終了する(同法370条)ため、通常の訴訟よりも短期間で終了する場合が多いです。
請求額が60万円を超える場合は、通常の訴訟によって解決を図ることになります。
本サイトを運営する弁護士は、未払い報酬の内容証明郵便の作成や、取引先との交渉、支払督促・訴訟の代理にも対応しています。
未払い報酬についてお悩みの方は、下記のフォームからお問い合わせください。
消滅時効に注意する
報酬を請求する際の注意点は、消滅時効がある点です。
民法166条1項
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
消滅時効が成立すると、その後は原則として同債権を請求できなくなります。
個人事業主は通常、支払期日を把握しているため、支払期日から5年が経過すると、時効によって請求できなくなる可能性が高いです。
時効の完成が近い場合は、内容証明郵便による催告や訴訟の提起によって時効の完成を猶予させることができるため、早急に対応する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 請求書を送るのが遅れた場合、支払いが遅れても仕方ないのでしょうか?
フリーランス法が適用される取引では、支払期日は請求書の受領日ではなく、発注事業者が納品物を受け取った日を基準に定めることとされています。公正取引委員会の勧告事例にも、請求書の提出が遅れたことを理由に、定めた支払期日までに報酬を支払わなかった事案が含まれています。
Q2. 労働基準監督署に相談すれば未払い報酬を回収してもらえますか?
業務委託の報酬は労働基準法上の賃金に当たらないため、原則として労働基準監督署の対象外です。ただし、実態が労働者と変わらない働き方をしていた場合には、労働者として扱われる可能性があるため、働き方の実態を踏まえて相談先を選ぶことが重要です。
Q3. 取引先と連絡が取れなくなった場合はどうすればよいですか?
取引先が法人であれば、登記事項証明書で本店所在地を確認し、その住所宛てに内容証明郵便を送ることが考えられます。原則、法的手続きでは相手方の住所等を特定する必要があるため、連絡が途絶えた時点で早めに弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
本記事では、個人事業主の報酬未払いへの対処法について解説しました。
- 個人事業主の報酬は賃金に当たらず、原則として自ら請求する必要がある
- フリーランス法により、支払期日は受領から60日以内とされ、違反は申出の対象になる
- 内容証明郵便、支払督促、少額訴訟・通常訴訟を状況に応じて使い分ける
- 報酬の請求権は、支払期日から5年で時効にかかるおそれがある
報酬未払いへの対応は、取引先との今後の関係も踏まえて、どの手段を用いるかの判断が重要になります。
当サイトを運営する弁護士は、個人事業主・フリーランスの報酬未払いに関するご相談にも対応可能です。
時効が迫っている場合は急ぎの対応が必要になりますので、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
相談を希望する方は以下のフォームからご連絡ください。
この記事の執筆者
本サイトを運営する弁護士(第一東京弁護士会所属)が執筆しています。

コメント