懲戒解雇で退職金を不支給にできる?会社側の判断基準を弁護士が解説

懲戒解雇で退職金を不支給にできる?会社側の判断基準を弁護士が解説 労働問題

従業員の不正行為が発覚し、懲戒解雇を行う場合、退職金まで支払わなければならないのでしょうか。

「懲戒解雇なのだから退職金は支給しない」と考えて処理してしまうと、後に元従業員から退職金の支払いを求められ、紛争に発展するおそれがあります。

そこで、この記事では、弁護士が、懲戒解雇の場合に退職金を不支給・減額できるのかについて、解説します。

本記事は2026年9月時点の法令・公表情報に基づいて作成しています。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

懲戒解雇の場合に退職金の支払義務はあるか

まず、懲戒解雇の場合には、問答無用で退職金の支払いを拒むことはできるのでしょうか。

前提として、就業規則等で支給基準が定められている退職金は、労務の対償として支払われるもの、すなわち労働基準法上の「賃金」に当たるとされています。

労働基準法11条
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

参照 e-Gov 法令検索 労働基準法

したがって、原則として、就業規則に定められている退職金は、その規則に沿って支払う義務があります。

もっとも、退職金は就業規則等に沿って支払われるため、規則に不支給・減額条項があれば、この条項も踏まえ退職金が算定されます。

つまり、懲戒解雇の場合に退職金を不支給・減額とする旨の定めが就業規則や退職金規程にない場合、会社は原則として退職金を支払う義務を負います。

したがって、会社としては、懲戒解雇の場合には退職金を不支給・減額する旨の条項を追加・作成することが考えられます。

就業規則を作成しようとしている場合は、就業規則の記載事項について、「就業規則の作成義務はある?作成義務がある場合と作成方法を解説」で解説していますので、ご覧ください。

不支給・減額が認められるかの判断基準

では、退職金規程に不支給条項を設けていれば、常に退職金を支払わずに済むのでしょうか。

規程があっても全額不支給が認められるとは限らない

結論として、不支給条項があるからといって、当然に全額の不支給が認められるわけではありません。

裁判例では、賃金の後払い的な性質を持つ退職金の全額を不支給とするには、それまでの勤続の功を抹消してしまうほどの重大な背信行為があることが必要とされています(小田急電鉄事件)。

また、同裁判例は、退職金が、給与や勤続年数にしたがって定められている場合は、賃金の後払い的な性質が強いとしています。

そのため、このような場合には、非違行為の内容や程度、会社が受けた損害、勤続年数、これまでの勤務態度などに照らして全額不支給が重すぎると判断されると、一部の支払いを命じられる場合があります。

会社としては、退職金の不支給・減額条項があったとしても、どの範囲で不支給・減額とするかを慎重に検討する必要があります。

参照 厚生労働省 確かめよう労働条件

懲戒解雇自体が無効であれば前提を欠く

また、そもそも懲戒解雇自体が無効と判断されれば、不支給条項を適用する前提を欠くことになります。

労働契約法15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

参照 e-Gov 法令検索 労働契約法

懲戒解雇の要件は、非常に厳しいですが、懲戒解雇が無効となれば、退職金だけでなく、解雇後の未払い賃金の支払いまで求められることになりかねません。

したがって、退職金の取扱いを検討する前提として、懲戒解雇そのものの有効性を十分に確認する必要があります。

懲戒解雇が有効となる基準については、「懲戒解雇の理由と有効性の要件とは?労使双方の注意点を弁護士が解説」で解説していますのでご覧ください。

懲戒解雇の際の退職金に関する裁判例

上記のように、懲戒解雇の際に退職金を不支給とするためには、重大な背信行為が必要であると解説しました。

では、裁判例は、どのような場合に重大な背信行為があったとするのでしょうか。

小田急電鉄事件

この裁判例は、懲戒解雇された者が、電車内で痴漢を2回行い、さらに余罪も発覚し、執行猶予判決を受けた事案です。

鉄道会社に勤務しており、痴漢を撲滅するべき立場の者が痴漢を行ったという点も考慮されましたが、20年にもわたり勤務してきたことや、会社外の行為であることが考慮され、全額不支給は認められず、3割の支給であると判決が下されました。

このように、背信性を認定するにあたり、事案の悪質性も当然考慮されますが、勤続年数や会社への貢献度も評価され、退職金の不支給の可否を決めるといえます。

ピアス事件判決

本事案は、懲戒解雇された者が会社に在籍中に、会社と競業する新会社を設立し、同新会社の開業準備行為を行った事案で、背信性があるとして、退職金の不支給が認められました。

この事案では、会社と新会社が競業関係にあり、会社で取得した知見を競合会社で用いたことや、在籍中に新会社を設立し、開業準備行為を主宰していたことが考慮されました。

参考 労働基準判例検索

会社が実務上注意すべきポイント

ここからは、退職金の不支給・減額に関する紛争を防ぐために、会社側が押さえておきたいポイントを解説します。

退職金規程に不支給・減額条項を明記する

前述のとおり、不支給・減額には規程の記載が必要であるため、同規程や就業規則に、懲戒解雇の際に退職金を不支給・減額とする旨を明記する必要があります。

その際、全額不支給だけを定めるのではなく、事案の程度に応じて一部減額も選択できる内容にしておくと、よいといえます。

なお、退職金を不支給・減額条項を新設する場合には、就業規則の不利益変更にあたり、変更には制限があります。

この制限や改定する際のポイントについては「就業規則の変更手続きと不利益変更の限界を弁護士が解説」をご覧ください。

処分の検討段階で退職金の取扱いまで判断する

次に、懲戒処分を決定する段階で、退職金の扱いまで一体として検討しておくことが重要です。

処分の言渡し後に取扱いを変更すると、会社の判断の一貫性の観点から、紛争となった際に不利に働くおそれがあります。

また、非違行為の事実関係や会社が受けた損害を裏付ける証拠を、この段階で確保することも忘れないようにしましょう。

本サイトを運営する弁護士は、退職金規程の整備や、懲戒処分に伴う退職金の取扱いの検討についてのご相談にも対応しています。

この点につき、判断に迷う場合は、下記のフォームからお問い合わせください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 退職金規程に不支給条項がない場合、懲戒解雇でも支払う必要がありますか?
規程上の支給条件を満たしている以上、原則として支払う必要があります。個別の合意によらずに不支給とすると、後日請求を受けるリスクがあるため、まず規程の内容を確認することが重要です。

Q2. 元従業員から退職金を請求された場合、どう対応すべきですか?
まず、懲戒解雇の有効性や不支給条項の適用の可否を確認し、会社の主張を裏付ける証拠を収集・検討する必要があります。訴訟や労働審判に発展する可能性もあるため、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。労働審判の流れは「労働審判とは?申立てから解決までの流れをわかりやすく解説」で解説しています。

Q3. 退職金の時効は何年ですか?
退職金の時効は5年です(労働基準法115条)。退職金を含む賃金支払い請求権の時効については、「残業代の時効は何年?いつまで遡って請求できるかを弁護士が解説」で解説しています。

まとめ

本記事では、懲戒解雇の場合に退職金を不支給・減額できるのかについて、会社側の視点から解説しました。

  • 規程で支給条件を定めた退職金は賃金に当たり、不支給には規程上の根拠が必要である
  • 不支給条項があっても、全額不支給には重大な背信行為が必要とされている
  • 規程の整備と証拠の確保を、懲戒処分の検討段階から進めておくことが重要

退職金の不支給・減額は、規程の内容と非違行為の重さを踏まえて、背信性の有無を総合的に判断する必要があります。

この手続きを誤ると、退職金を巡る紛争で大きな負担を負うことにもなりかねません。

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判断に迷う場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。相談を希望する方は以下のフォームからご連絡ください。

この記事の執筆者

本サイトを運営する弁護士(第一東京弁護士会所属)が執筆しています。

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