はじめに
有給休暇を申請したのに「忙しいから無理」と取得拒否される場面が多発しています。
実は、有給休暇は労働基準法によって保障された労働者の当然の権利であり、原則として、会社は有給の申請に対して拒否できません。
ただし例外的に時季変更権が認められ、有給の取得時期を会社側がずらすことができる場合があります。
そこで、本記事では、有給休暇を拒否できるケースと違法となるケースを判例から整理し、拒否された場合の具体的な対応策も解説します。
有給休暇の発生根拠
労基法39条1項は、6か月以上継続勤務し、出勤率が8割以上である場合に、10日間の有給休暇が発生すると定めています。
そして、勤務年数が増えるごとに、所定の日数の有給が基本の日数である10日間に加算されると定められています(同条2項)。
これらの要件を満たした労働者には、法的に有給休暇を取得できる権利があり、労働者が有給の取得を申請した場合、会社は原則として拒否できません。
現に、白石営林署事件判決(最高裁昭和48年3月2日)判決では、有給休暇は、取得要件を満たせば発生する権利であり、会社の有給取得の承認は有給取得の要件とはならないと判示しています。
つまり、原則として、労働者が有給の時期を指定し申請すれば、原則として会社の承認がなくとも有給を取得できます。
有給取得日をずらすことができる時季変更権とは
以下では、労働者の有給申請に対し、有給取得日をずらすことができる時季変更権について解説します。
時季変更権の概要
ここまで、原則として会社は有給の申請を拒否できないと解説してきました。
しかし、例外的に有給の申請に対し、別の日に有給取得日をずらす権利があります。
それは、時季変更権の行使が認められる場合です。
労基法39条5項には時季変更権について以下のように規定されています。
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
条文を読むと、有給を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に他の日に有給を与えることができると規定しています。
つまり、会社ができるのは「別の日にしてほしい」と日程の調整を求めることだけであり、有給そのものを無効にしたり、無期限に拒むことは許されません。
時季変更権が認められる場合とは
上記のように、有給を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当した場合には、会社は有給の取得日をずらすように求めることができます。
では、この「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、具体的にどのような意味を持っているのでしょうか。
「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、労働者が有給を取得しなければ提供されてた労働が、会社の業務に必要不可欠であり、会社側が代替要員の確保が困難であるような事情が存する場合に限られるとされています。
現に、弘前電報電話局事件(最高裁昭和62年7月10日)では、通常の配慮をすれば勤務割の変更により代替要員の確保ができたのに会社側はそれをしていないとして、時季変更権を行使することはできないと判示しました。
これらの判例を踏まえると、会社側が代替要員を確保しようと動いても確保できないような事情がない限り時季変更権の行使はできないこととなります。
逆に、その日に有給を使用すると会社の業務成り立たなくなり、代替要員を会社が探しても見つからないような事情がある場合には、時季変更権の行使が認められ、有給の取得時期をずらす必要があります。
有給の取得を拒否された際の対処法
会社から有給の取得を拒否された場合は、以下のような対応を検討しましょう。
有給取得拒否の理由を聞く
まずは、会社側に有給取得を拒否する理由を聞きましょう。
上記のように、会社側が時季変更権を行使できる可能性があるため、理由をしっかりと聞き、時季変更権を行使する趣旨であるのかについて明らかにしておくとよいでしょう。
仮に、会社側が時季変更権の行使をし、その理由が妥当なものである場合は、別日に有給の取得をしましょう。
一方で、時季変更権の行使ではないのに有給の取得を拒否された場合や、時季変更権の行使の理由が妥当なものでない場合は、次のステップに移る必要があります。
有給の取得について会社と交渉する
有給の取得拒否の理由に納得がいかない場合は、会社と交渉することを検討しましょう。
交渉の際は、感情的になるのではなく、法的根拠や判例を示すなど、論理的な交渉を展開する必要があります。
しかし、法的な知識が少ない場合、法的根拠や判例を示して交渉するのには限界があるため、弁護士の協力が必要になる場合があります。
労働基準監督署に相談する
会社と交渉しても是正されない場合は、労働基準監督署に相談することを検討しましょう。
労働基準監督署は厚生労働省の機関であり、事業場で法令違反がある場合に、その監督や指導を行う期間です。
これらの監督や指導は、基本的に労働者からの申告をきっかけにして行わるため、労働基準監督署に相談することにより、会社に監督や指導が入り、有給の取得について見直される可能性があります。
労働審判や訴訟に踏み切る
最終的には、労働審判や訴訟に踏み切る可能性があります。
労働審判は、通常の訴訟と異なり、原則3回以内で終了することから、通常の訴訟と比べ、短期間で終了しやすくなります。
労働審判や訴訟になった場合、裁判所が有給の取得拒否の適法性について判断するため、会社の対応に関わらず、勝敗を決することができます。
しかし、労働審判や訴訟になった場合、手続きを有利に進めるためには弁護士等の専門家をつけることが多くの場合必要となるため、弁護士費用が発生してしまいます。
したがって、未払いの残業代があるといった他の労働問題も抱えている場合は、合わせて請求するとよいでしょう。
まとめ
本記事では、有給の取得拒否が違法となるケースや取得を拒否された場合の対処法について解説しました。
- 有給は6か月以上継続勤務し、出勤率が8割以上である場合に発生する
- 時季変更権の行使以外で有給の取得を拒否できない
- 時期変更権は「事業の正常な運営を妨げる場合」に行使できる
有給は労働者の権利であり、上記の要件の満たせば当然に発生するものです。
拒否された場合は、冷静に対応し、自己の権利を活用できるように努めましょう。
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