はじめに
残業したのに残業代が支払われないという違法なサービス残業に悩まされている方も多いのではないでしょうか。
しかし、そもそも労働法上、残業代が発生するかについてや、残業代の請求の仕方は非常に複雑です。
そこで、本記事では、サービス残業が違法とされるケースを解説し、残業代の請求方法について解説します。
サービス残業が違法ではないと考えがちなケース
原則としてサービス残業つまり時間外労働をしたのにも関わらず、残業代が支払われないことは違法です。
それにもかかわらず、以下で解説する場合には、サービス残業が違法ではないと考えている方が多いのが実態です。
そこで、サービス残業が違法ではないと勘違いしやすいケースを裁判例を交えて解説します。
明示的に残業の指示がない場合
会社が明示的に「残業しろ」と言わなくても、納期に間に合わない量の仕事を与えたり、恒常的に残業を黙認していたりすれば、裁判所は「黙示の残業命令」があったとして残業代請求を認めます。
現に、京都銀行事件(大阪高裁 平成13年6月28日判決)では、銀行員が始業前に恒常的に早出していた事例で、裁判所は、始業時間前に金庫の開閉を行うという運用をしていたことなどを理由に始業時間までの勤務について黙示の指示があったとして残業代請求を認めました。
名ばかり管理職とされた場合
確かに、労働法上の「管理監督者」に該当した場合は、時間外労働に対する割増賃金の規定が適用されず、残業に対する残業代は発生しません。
それを利用し会社が管理者に任命し、「管理監督者だから残業代は不要」と主張し、残業代を支払わない場合があります。
しかし、「管理監督者」に該当するか否かは、労務管理に関する指揮監督権限があり、労働時間に裁量があり、その地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられているという要素を総合考慮し決します。
つまり、判例は、管理監督者を役職の名称とった形式的な判断をするのではなく、実質的に管理監督者といえるか否かで判断しています。
したがって、これらの要件を満たさない名ばかり管理職には残業代が発生します。
実際に、日本マクドナルド事件(東京地裁 平成20年1月28日判決)では、勤務時間の裁量がないことや、経営方針に関する決定権が存しなかったことを理由に、マクドナルドの店長が管理監督者にあたらないとして、残業代請求を認めた事案があります。
待機・仮眠時間
仮眠中は労働時間に該当せず、残業代は発生しないのではないかと考えている方もいるかと思います。
しかし、待機・仮眠時間であっても、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている場合は労働時間に該当します。
大星ビル管理事件(最高裁 平成14年2月28日判決)では、ビル管理人の仮眠時間について、最高裁は仮眠中であっても警報や電話があった際にはすぐに対応しなければならないことを理由に、使用者の指揮監督下にあり、労働時間に該当すると判断しました。
固定残業制の場合
固定残業性制であることを理由に給与は支払い済みであるとして、残業代の請求に応じないと会社が主張する場合もあります。
しかし、「残業代込みの給与だから」と会社が主張しても、基本給と残業代部分が明確に区分されていなかったり、残業代と明示された部分が支払われるべき残業代を超えていなかったりする場合は違法となります。
テックジャパン事件(最高裁 平成24年3月8日判決)では、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないとして、割増賃金を支払ったとは言えず、別途残業代を支払う義務があると判断しました。
サービス残業に対する残業代を請求するために集めるべき証拠
サービス残業に対する残業代を請求するには、証拠が必要となります。
そこで、以下では、サービス残業に対する残業代を請求するために集めるべき証拠について解説します。
勤怠記録
残業代を請求するには、タイムカードや勤怠システムといった勤怠記録は必要不可欠です。
まず、残業代を請求するには、自分が何時間残業したのかについて確認する必要があるため、この点を勤怠記録によって明らかにします。
雇用契約書・就業規則
残業代を請求するには、雇用契約書や就業規則も必要です。
これらの書類によって、就業時間や本来支払われるべき残業代の額などといった残業代請求の前提となる雇用条件を明らかにすることができます。
給与明細
残業代を請求するにあたって、給与明細は必要な証拠となります。
給与明細によって、会社から本来支払われるはずの残業代が支払われていないことを明らかにします。
残業代の請求方法
以下では、サービス残業に対する残業代の請求方法について解説します。
会社へ内容証明郵便を送る
まずは会社に対し、内容証明郵便で未払い残業代の支払いを求めます。
内容証明郵便には、氏名、請求金額や支払い口座等を記載し、残業代の支払いを求める旨の文言を添えて送付しましょう。
内容証明郵便は、あくまでも支払いを求めることにとどまるため、必ずしも支払いを受けることができるとは限りませんが、内容証明を送付することにより、賃金債権の消滅時効の完成を一時的に猶予することができ、その証拠となるため、仮に、訴訟に発展したとしても有効な手段といえます。
労働審判・調停
内容証明郵便を送付しても会社が残業代の支払いに応じない場合は、労働審判や訴訟により残業代を請求することになります。
労働審判は原則3回以内の期日を開き、その中で労働審判委員が双方から言い分を聞き、調停もしくは審判を行うという制度です。
この制度は訴訟よりも比較的短期間で終わる点が特徴です。
まとめ
本記事では、サービス残業が違法となるケース、残業代請求に必要な証拠や残業代請求の流れについて解説しました。
サービス残業は原則として違法であり、上記のように一見違法でなさそうな場合であっても、裁判所は違法性を厳格に判断しています。
したがって、「会社から出ないと言われているから」と残業代の請求をあきらめるのではなく、裁判例に従って、自身に残業代が発生するか否かを冷静に見極め判断しましょう。
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