労働審判とは、訴訟よりも早く、話し合いによる柔軟な解決を目指すことができる裁判所の手続きです。
実際、裁判所が公表している統計では、平成18年の制度開始から令和6年までに終了した事件の平均審理期間は82.6日、65.5%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。
参考 裁判所 労働審判手続
そこで、この記事では、弁護士が、労働審判とは何か、制度の基本的な仕組み及び労働審判の具体的な流れや注意点などを解説します。
本記事は2026年8月時点の裁判所公表情報・法令に基づいて作成しています。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
労働審判とは?基本の仕組み
では、まず労働審判とは何でしょうか。
労働審判の定義
労働審判とは、解雇や賃金未払いなど、労働者と会社の間で生じた個別のトラブルを、裁判所において迅速・適正・実効的に解決するための手続きです(労働審判法1条)。
参考 e-Gov 法令検索 労働審判法
誰が審理するのか(労働審判委員会)
労働審判は、次の3名で構成される「労働審判委員会」が担当します。
- 労働審判官(裁判官)1名
- 労働審判員2名(使用者側の実務経験を持つ委員1名、労働者側の実務経験を持つ委員1名)
労働審判員は、企業の人事労務や労働組合活動などの実務経験を持つ専門家から任命され、中立・公正な立場で審理に加わります。
裁判官だけでなく、労使双方の実情に詳しい専門家が加わる点が、通常の民事訴訟と大きく異なります。
労働審判の通常訴訟との違い
では労働審判は、訴訟や民事調停とは何が違うのでしょうか。
| 手続き | 期日回数の目安 | 公開・非公開 | 話し合いの有無 | 強制力 |
|---|---|---|---|---|
| 労働審判 | 原則3回以内 | 非公開 | 調停を重視しつつ、まとまらなければ審判 | あり(審判に対し異議申立てがなければ強制執行可能) |
| 通常の民事訴訟 | 事案により多数回(労働関係訴訟の平均審理期間は近年14か月前後) | 原則公開 | 和解の手続きの際に話し合いの余地がある | あり(判決確定) |
このように、労働審判は、任意の話し合いと、訴訟のような公的な強制力のちょうど中間に位置します。
つまり、スピードと実効性を両立させた手続きであるといえます。
現に、訴訟の平均審理期間は約14カ月前後ですが、労働審判は原則3回以内で終了します。
また、労働審判は訴訟と異なり、非公開の手続きであるため、法的手続きが行われていることが公開されない状態で進行することができ、レピュテーションリスクを低下させることができます。
参考 裁判所 地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情
労働審判の対象となる主なトラブル
労働審判で扱われる紛争として特に件数が多いのは、次のようなケースです。
- 解雇・雇止めの有効性を争うケース(地位確認、バックペイ請求など)
解雇や雇止めに係る紛争は、労働審判において非常に多い紛争です。
試用期間中の解雇特有の論点については、「試用期間中の解雇は違法?不当なクビの判定基準と身を守る方法」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。 - 残業代・賃金の未払い請求
労働審判では、短期間の手続きのため、短期間に主張立証を行う必要があります。したがって、あらかじめ残業代の具体的な計算を済ませておく必要があります。
計算方法の基本は、「残業代の計算方法とは?計算方法や請求できる場合について解説」をご参照ください。 - パワハラ・セクハラ等を理由とする損害賠償請求
ハラスメントを理由とする慰謝料請求も労働審判の対象になり得ますが、行為の態様や証拠の有無によっては、労働審判になじまないと判断されることもあります。
パワハラの定義そのものから確認したい方は、「パワハラの定義とは?パワハラの要件と会社の対応について解説」をご覧ください。
一方で、3回以内の期日で終わらせることが難しく、労働審判に適さないと判断される場合、労働審判が終了することがあります(労働審判法24条)。
労働審判の流れ
ここからは、実際に労働審判がどのような流れで進行するかについて解説します。
申立て
まず、労働者(申立人)が、地方裁判所に申立書と証拠書類を提出します。
申立先は、原則として相手方(会社)の住所等を管轄する地方裁判所で、本庁のほか、東京地裁立川支部・静岡地裁浜松支部・長野地裁松本支部・広島地裁福山支部・福岡地裁小倉支部でも取り扱われています。
申立書には、単に請求内容を書くだけでなく、次の事項を記載することが労働審判規則で定められています。
- 申立ての趣旨・理由
- 予想される争点、および争点に関連する重要な事実
- 争点ごとの証拠
- 交渉やあっせんなど、申立てに至る経緯の概要
労働審判は基本的に2回目までに主張を出し尽くす必要があるため、申立て段階で必要な証拠を揃え、事実関係を整理する必要があります(労働審判規則27条)。
また、労働審判員も限られた時間で記録に目を通すため読みやすく争点に絞った申立書を作成できるかどうかが、その後の審理の心証形成に影響を及ぼします。
第1回期日の指定・呼出し
次に、第一回期日を指定し、当事者の呼び出しを行います。
労働審判官は、特別な事情がある場合を除き、申立てがされた日から40日以内に第1回期日を指定し、当事者双方を呼び出す必要があります(労働審判規則13条)。
答弁書等の提出(相手方)
次に、相手方が答弁書や証拠等を提出します。
相手方(多くは会社)は、指定された期限までに答弁書と証拠書類を提出します。
実務上、提出期限は第1回期日のおおむね1週間〜10日前に設定されることが多いです。
したがって、第一回期日が40日以内に指定されることを考えると、実質的な準備期間は1か月もないこととなり、かなりタイトなスケジュールとなります。
答弁書についても、申立書と同様に、争点・証拠・経緯の概要などを記載する必要があります(労働審判規則16条)。
このように、労働審判の相手方は、短期間で充実した反論を行わなければなりません。
現に、筆者が相手方の代理人を務めた際には、労働審判の流れの中で、答弁書の提出が最も労力を要しました。
期日における審理(原則3回以内)
次に、期日が行われます。
労働審判委員会は、原則として3回以内の期日で審理を終えます(労働審判法15条2項)。
手続きは非公開で行われ(同法16条)、当事者や関係者(会社の担当者・上司など)から直接事情を聴取することが多いです。
労働審判は、まずは調停を目指す手続きのため、申立人と相手方が交互に審判委員会のいる部屋に入り、相手に聞こえない状態で、審判委員会と調停条件に関する協議をすることが多いです。
したがって、場合によっては、1回の期日に2時間程度要することもあります。
主張・立証は、原則として期日でのやり取りが基本であり、後の期日になってから新しい主張や証拠を追加することは基本的に想定されていません。
ですので、第1回期日までにどれだけ準備を尽くせるかが、結果を大きく左右します。
調停成立、または労働審判
期日において双方が調停案に合意をすれば、調停が成立となります。
一方で、話し合いがまとまらない場合は、労働審判として、審判委員会が、判断を示します。
- 調停が成立した場合:話し合いがまとまると調停調書が作成され、その内容は裁判上の和解と同一の効力を持ちます(労働審判法29条2項、民事調停法16条)。条項の内容によっては強制執行も可能になります。
- 調停が成立しない場合:審判委員会が、事案の実情に即した判断(労働審判)を示します(労働審判法20条1項)。労働審判が確定した場合は、同審判に基づき強制執行を行うことができます。
異議申立て、または確定
労働審判の内容に不服がある当事者は、告知または送達を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができます(労働審判法21条1項)。
この、異議申立てがない場合は、労働審判は確定し、裁判上の和解と同一の効力を持ちます(同法21条4項)。
一方で、異議申立てがある場合、労働審判は効力を失い、労働審判の申立て時に訴えの提起があったものとみなされ、自動的に通常の訴訟手続へ移行します(同法21条3項・22条1項)。
申立てを受けた(相手方になった)場合の対応
会社側として労働審判の申立書が届いた場合、意識すべきなのはスケジュール管理です。
- 申立てから40日以内に第1回期日が指定される
- 答弁書の提出期限は、期日のおおむね1週間〜10日前
- 実質的な準備期間は1か月に満たないことが多い
このタイトな日程の中で、就業規則・賃金台帳・タイムカードなどの資料確認、事実関係の整理や出席予定者へのヒアリングとリハーサルを行う必要がある場合があります。
したがって、申立書を受け取ったら、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 労働審判は弁護士なしで、本人だけで申し立てることはできますか?
制度上は本人による申立ても可能です。ただし、原則3回以内の期日で主張・立証を尽くす必要があるという手続きの特性上、弁護士に依頼することが望ましいとされています。
参考 裁判所 労働審判手続
Q2. 労働審判で解決しなかった場合はどうなりますか?
労働審判の内容に異議が申し立てられると、労働審判は効力を失い、労働審判の申立て時に訴えの提起があったものとみなされて、自動的に通常訴訟へ移行します(労働審判法21条3項・22条1項)。
Q3. 期日に出席しないとどうなりますか?
労働審判は当事者双方の陳述を聴いて争点整理や心証形成を行う手続きであるため、決裁権限のある担当者を含め、関係当事者が出席することが前提とされています。正当な理由なく欠席すると、主張立証の機会を十分に活かせず、不利な判断につながりかねません。
また、正当な理由なく欠席した場合は、5万円以下の過料に処される場合があります(労働審判法31条)。
まとめ
本記事では、労働審判とは何かや、労働審判の流れなどについて解説しました。
労働審判は、解雇や残業代未払いといった労働トラブルを、原則3回以内の期日で解決できる、非公開かつ柔軟な裁判所の手続きです。
一方で、準備期間が非常に短く、後出しの主張・立証が原則としてできないという特性上、申立て前あるいは答弁書提出前の初動対応が、結果を大きく左右します。
「解雇された」「残業代が支払われない」といったトラブルで労働審判の申立てを検討している方も、逆に申立書が届いて対応に迫られている方も、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
本サイトを運営する弁護士は労働審判にも対応しておりますので、労働審判について弁護士に相談したいと考えている方は、こちらの相談フォームからお問い合わせください。

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