固定残業代は違法?みなし残業代を超えた分の請求方法を解説

固定残業代は違法?みなし残業代を超えた分の請求方法を解説 労働問題

給与明細に「固定残業代」「みなし残業代」といった記載があるものの、実際にはその時間を大きく超えて残業しているのに、追加の残業代が支払われていない、ということはないでしょうか。

「固定残業代に含まれているから」と会社に言われると、それ以上は請求できないと諦めてしまう方も少なくありません。

しかし、固定残業代の制度は、法律上の要件を欠く場合は制度自体が無効となり、時間に応じた残業代をもらうことができる可能性があります。

そこで、本記事では、弁護士が、固定残業代(みなし残業代)が違法・無効となるケースと、含まれる時間を超えた残業代の請求方法について解説します。

本記事は2026年8月時点の法令・厚生労働省公表資料に基づいて作成しています。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

残業代そのものの計算方法をまだ確認していない方は、先に「残業代の計算方法とは?計算方法や請求できる場合について解説」をご覧ください。

固定残業代(みなし残業代)とは?

まず、固定残業代とはどのような制度なのかを確認します。

固定残業代とは一定時間分の残業代をあらかじめ定額で支払う制度

固定残業代(みなし残業代)とは、名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金を、あらかじめ定額で支払うこととする仕組みをいいます。

この、「固定残業代」「みなし残業代」のほか、「業務手当」「営業手当」といった名称の手当に残業代分が含まれているとされているケースもあります。

制度の導入自体は適法

結論から言うと、固定残業代制度を導入すること自体は違法ではありません

ただし、固定残業代を賃金に含める場合、募集要項や求人票に次の3点をすべて明示するよう求められています。

  1. 固定残業代を除いた基本給の額
  2. 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
  3. 定められた固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨

つまり、固定残業代に、何時間分の残業代が含まれているかが明確になっており、かつ超えた分は別途支払われる仕組みになっている場合に適法とされます。

参考 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク 固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします
参照 e-Gov 法令検索 労働基準法

固定残業代が無効になる(違法と評価される)ケース

では、どのような場合に固定残業代が無効と判断されるのでしょうか。

通常の賃金部分と区別できない場合

まず、基本給の中に残業代が含まれているとされながら、通常の労働時間の賃金にあたる部分と、割増賃金にあたる部分とを判別できない場合は、固定残業代として認められません。

この点が争われた最高裁判例(平成24年3月8日第一小法廷判決)では、基本給を月額41万円とし、月間総労働時間が180時間を超えた場合に超えた時間分を別途支払う、という契約について、次のように判示されました。

基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法第37条第1項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものというべきである。(略)月額41万円の基本給の支払を受けたとしても、その支払によって、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について労働基準法第37条第1項の規定する割増賃金が支払われたとすることはできない。

参考 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク 固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします

このように、給与明細や雇用契約書に残業代の算定の基礎となる時間数や金額が明示されておらず、基本給に漠然と含まれているとされているだけの場合は、残業代が支払われたと評価されない場合があります。

また、年俸制や歩合制の場合も、残業代にあたる時間及び金額を明示する必要があるとされています。

参考 全国労働基準関係団体連合会 最高裁平成29年7月7日判決

参考 全国労働基準関係団体連合会 最判令和2年3月30日判決

割増賃金の対価として支払われているといえない場合

次に、時間数や金額が明示されていても、その手当が実質的に残業の対価として支払われているといえない場合も、固定残業代として認められません。

例えば、売上に応じて支給される手当や、残業の有無にかかわらず一律で支給される手当については、形式的に固定残業代とされていても、対価性が否定される場合があります。

対価性の有無は、雇用契約書等の記載内容に加え、実際の労働時間といった勤務形態や、割増賃金に関する使用者の説明の内容を踏まえて判断されます(最高裁 日本ケミカル事件判決)。

参考 全国労働基準関係団体連合会 日本ケミカル事件

固定残業代を超えた分・無効になった分の請求額

ここまで、固定残業代が無効になるケースを解説しました。

では、残業代を請求する権利がある場合、実際にどのように請求すればよいのでしょうか。

固定残業代が有効でも、超えた時間分は当然に請求できる

まず、固定残業代の制度自体が適法に運用されている場合であっても、あらかじめ定められた時間を超えて残業した分については、別途割増賃金を請求できます

これは、前述のとおり、固定残業時間を超える分について追加で支払う旨をあらかじめ明示することが、適法な固定残業代の要件だからです。

「固定残業代に含まれているから」と言われても、設定されている時間数を超えている場合は、その超過分を請求できます

固定残業代自体が無効なら、支払われていた金額も含めて再計算できる

次に、固定残業代の制度自体が無効と判断される場合です。

固定残業代が無効となると、それまで固定残業代として支払われていた金額は、割増賃金の支払いとして扱われず、通常の賃金として算定基礎に組み込まれる場合があります(労基法37条2項、労基法施行規則21条)。

つまり、固定残業代がまったく残業代の支払いとして認められなかった扱いになるため、会社が想定していたよりも高額な未払い残業代が発生する場合があります。

具体的な割増賃金の計算方法については、「残業代の計算方法とは?計算方法や請求できる場合について解説」をご参照ください。

請求できる期間(時効)は原則5年、当分の間は3年

固定残業代を超えた分・無効になった分の未払い残業代も、通常の残業代請求権と同様に消滅時効があります。

時効は原則5年、当分の間は3年とされており、退職日からではなく、給与の支払期日ごとに個別に進行します。

詳しい時効の考え方や止め方については、「残業代の時効は何年?いつまで遡って請求できるかを弁護士が解説」で解説していますので、あわせてご確認ください。

残業代を請求する場合の流れ

最後に、固定残業代が無効の場合に、残業代を請求する流れを解説します。

証拠を集める

まず、固定残業代の有効性を判断するためには、雇用契約書・求人票・就業規則・給与規程など、固定残業代の時間数や金額の記載がある書類を集める必要があります。

これらの書類に時間数・金額が明示されていない場合、固定残業代が無効を裏付ける重要な証拠になります。

また、固定残業代を超えて働いた場合、タイムカード、勤怠システムの記録、業務用メールの送受信時刻などといった、勤務時間が分かる証拠を集める必要があります。

会社と交渉を行う

次に、会社に対して、残業代を支払うように申し出て、交渉を行います。

この際、いきなり書面で残業代を支払うように伝えると、紛争が大きくなりすぎてしまう可能性があるため、まずは、メールやチャット等といったカジュアルな手段で残業代を支払ってほしいと伝えるようにしましょう

この際、具体的な請求額と根拠を明示するようにしましょう。

カジュアルに伝えても応じない場合は、書面により残業代を支払ってほしいと通知をします。

この書面には、請求の根拠は当然ながら、具体的な事実や法律論についても書面に記載する場合もあります

したがって、この交渉段階から、弁護士に依頼して、弁護士に交渉を行ってもらうべき場合もあります。

本サイトを運営している弁護士は、残業代に関する交渉についても対応可能です。

残業代について交渉を依頼したい方は、以下のフォームからまずはご相談ください。

労働審判・訴訟

交渉でも会社側が残業代の支払いに応じなかった場合は、労働審判や訴訟などの、法的手続きに移行する必要があります。

労働審判とは、裁判所の元で、両者の合意を目指す手続きで、訴訟に比べ比較的短期間で終了する手続きです。

この労働審判の詳細については、「労働審判とは?申立てから解決までの流れをわかりやすく解説」にて詳しく解説しているため、是非ご覧ください。

労働審判もしくは訴訟で残業代の支払い義務が認められると、強制力のある判決調書もしくは調停調書を取得し、これに基づき強制執行ができるようになります。

まとめ

本記事では、固定残業代(みなし残業代)が違法・無効となるケースと、固定残業代に含まれる時間を超えた分の請求方法について解説しました。

  • 固定残業代の導入自体は違法ではないが、時間数・金額の明示など一定の要件が必要
  • 要件を欠くと無効になり、支払われていた金額も含めて残業代を再計算できる場合がある
  • 有効な場合でも、設定時間を超えた分は別途請求できる

固定残業代が有効かどうかの判断には、雇用契約書の記載内容や実際の勤務実態などからの検討が必要です。

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相談を希望される方は以下のフォームからご連絡ください。

この記事の執筆者

本サイトを運営する弁護士(第一東京弁護士会所属)が執筆しています。

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