従業員の不正行為が判明し、懲戒解雇を検討している。あるいは、会社から突然懲戒解雇を告げられ、納得できない。
懲戒解雇は、労働者にとって最も重い処分であるため、会社が理由や手続きを誤ると、後に無効と判断されるおそれがあります。
そこで、この記事では、弁護士が、懲戒解雇の理由になり得る行為と、有効性の要件について、会社側・労働者側双方の視点から解説します。
本記事は2026年9月時点の法令・公表情報に基づいて作成しています。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、企業秩序に違反した労働者に対する制裁として行われる、最も重い懲戒処分です。
普通解雇・諭旨解雇との違い
まず、普通解雇は、労働能力の不足や傷病など、労働契約を続けることが難しい事情を理由とする解雇であり、制裁の性質を持ちません。
一方で、懲戒解雇は、労働契約を続けられるかどうかの問題ではなく、企業秩序違反に対する制裁として行われる処分です。
また、諭旨解雇(諭旨退職)は、懲戒解雇に相当する事由がある場合に、本人に退職届の提出を促し、自主退職の形で退職させる処分であり、懲戒解雇よりも一段軽い処分として位置づけられています。
なお、懲戒処分の種類や程度は、あらかじめ就業規則に定めておく必要があり、就業規則に根拠のない懲戒は、原則無効とされています(労働基準法89条9号)。
就業規則の作成義務については、「就業規則の作成義務はある?作成義務がある場合と作成方法を解説」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
懲戒解雇の理由になり得る行為
では、どのような行為が懲戒解雇の理由になり得るのでしょうか。
実務上、次のような行為が典型例として挙げられます。
横領・背任などの不正行為
まず、会社の金銭の横領や着服、経費の架空請求といった不正行為は、会社に直接の財産的損害を与えるものであり、懲戒解雇の理由となり得る代表例です。
ただし、金額がごく少額である場合や、返済がされている場合には、懲戒解雇が重すぎると判断される可能性もあります。
長期の無断欠勤
次に、正当な理由のない長期の無断欠勤も、労務提供義務の重大な不履行として、懲戒解雇の理由となり得ます。
もっとも、欠勤の背景に心身の不調がある場合には、まず休職や受診を促す対応が求められることがあり、直ちに懲戒解雇とすることは適切でないとされる場合もあります。
重大なハラスメント
また、部下や同僚に対する悪質なパワハラ・セクハラも、職場環境を著しく害する行為として、懲戒解雇の理由となり得ます。
ハラスメントの該当性については、「パワハラの定義とは?パワハラの要件と会社の対応について解説」および「セクハラの定義とは?該当する言動と会社のセクハラへの対応義務を弁護士が解説」で解説しています。
経歴詐称・機密情報の漏洩
さらに、採用の判断を左右するような重大な経歴詐称や、会社の機密情報の漏洩も、懲戒解雇の理由となり得ます。
もっとも、経歴詐称については、詐称された内容が採用の判断に実際に影響を与えるものであったかどうかが問題となります。
また、機密情報を漏洩した場合は、労使間で秘密保持契約を締結していた場合は、同契約違反になりますし、締結していない場合であっても、懲戒解雇の原因となる場合があります。
秘密保持契約については、「秘密保持契約書(NDA)とは?記載すべき項目とチェックポイントを弁護士が解説」で解説しています。
私生活上の犯罪行為
私生活上の犯罪行為についても、会社の社会的信用を大きく損なう場合には、懲戒解雇の理由となり得ます。
しかし、職務と無関係な私生活上の行為は、本来、企業秩序と直接の関わりがないため、会社の名誉や信用に具体的な影響が生じたかどうかが慎重に判断されるため、犯罪=懲戒解雇とはならない点に注意が必要です。
現に、裁判例では、住居侵入罪で罰金刑を受けた者に対する懲戒解雇は、私生活の範囲内で行われたものであることや、罰金に留まったこと等を理由に、会社の体面を著しく汚したとまではいえないとし、無効とされたものがあります(横浜ゴム事件・最三小判昭和45・7・28)。
懲戒解雇が有効となるための要件
ここまで、懲戒解雇の理由となり得る行為を紹介しました。
では、懲戒解雇の要件はどのようになるのでしょうか。
就業規則に懲戒事由の定めがあり、周知されていること
まず、懲戒処分を行うには、あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由が定められ、それが労働者に周知されていることが必要とされています。
就業規則に根拠となる規定がない行為を理由に懲戒解雇をしても、有効とは認められません。
したがって、使用者側としては、就業規則を作成・変更するなどして、懲戒の種類と事由を定める必要があります。
就業規則の作成義務については、「就業規則の作成義務はある?作成義務がある場合と作成方法を解説」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
また、就業規則の変更手続きについては、「就業規則の変更手続きと不利益変更の限界を弁護士が解説」で詳しく解説していますので併せてご覧ください。
客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性
次に、上記で定めた懲戒事由に該当していることが必要となります。
就業規則上の懲戒事由に当たる場合でも、行為に対して、懲戒解雇という処分が重い場合は無効となります。
労働契約法15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
このように、非違行為の内容や程度、労働者のこれまでの勤務態度、過去の処分歴、他の従業員への処分との均衡などを踏まえて、懲戒解雇という処分が相当かどうかが判断されます。
したがって、非違行為があったこと自体は事実であっても、懲戒解雇は重すぎると判断され、無効となる場合があります。
現に、他の労働者の処分との均衡が失われている場合や、懲戒解雇は重すぎるとして、出席停止といった、軽い処分を行うべきとされた裁判例もあります。
適正な手続(弁明の機会)を経ていること
また、懲戒処分にあたっては、本人に事実関係を確認し、弁明の機会を与えるといった手続面も重視されます。
就業規則に懲戒委員会の開催などの手続きが定められている場合、その手続きを経ていなければ、それ自体が無効の理由となるおそれがあります。
本サイトを運営する弁護士は、懲戒処分の可否の検討や、処分理由書・弁明聴取の進め方についてのご相談や紛争の対応をしています。
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懲戒解雇に対する労使それぞれの注意点
ここからは、会社側・労働者側それぞれの立場での注意点を整理します。
会社側が注意すべきこと
まず、会社としては、就業規則に懲戒事由を記載する必要があります。
また、懲戒事由が発生した際は、懲戒事由に関する事実関係の調査を十分に行い、証拠を確保しておく必要があります。
懲戒解雇が争われた場合、非違行為の存在や程度を立証する責任は会社側が負うことになるためです。
その際は、必ず、労働者に弁明の機会を与えたことや、弁明の内容についても記録し、保存する必要があります。
また、懲戒解雇時の退職金の取扱いについても、就業規則や退職金規程の内容を確認し、不支給とできる範囲を事前に検討しておくことが重要です。
労働者側が取るべき対応
労働者側は、まず会社に対して解雇理由証明書の交付を求め、どのような事由による処分なのかを書面で明らかにしておくことが第一歩です。
また、事実と異なる点がある場合には、安易に退職届を提出せず、弁明の内容を記録に残しておくことが重要です。
処分に納得できない場合には、交渉のほか、労働審判や訴訟によって争うことが考えられます。
労働審判の流れについては、「労働審判とは?申立てから解決までの流れをわかりやすく解説」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 就業規則に定めのない理由で懲戒解雇された場合はどうなりますか?
懲戒処分には就業規則上の根拠が必要とされているため、定めのない事由を理由とする懲戒解雇は無効と判断される可能性が高いといえます。まずは解雇理由証明書を取得し、就業規則の該当条項を確認することが重要です。
Q2. 副業禁止の規定に違反した場合は懲戒解雇となりますか?
就業規則に副業禁止の規定があったとしても、その規定は無効と判断される場合もあり、その場合懲戒解雇も無効となる可能性があります。副業禁止の規定の有効性については、「副業禁止は違法?最新の法的判断基準と会社に不当に制限されないための自己防衛術」で解説していますので、併せてご覧ください。
まとめ
本記事では、懲戒解雇の理由と有効性の要件について解説しました。
- 横領等の不正行為、長期の無断欠勤、重大なハラスメント等が理由の典型例である
- 就業規則に懲戒事由の定めがあり、周知されていることが前提となる
- 懲戒事由に当たっても、処分が重すぎれば労働契約法15条により無効となり得る
懲戒解雇は、事由の有無だけでなく、処分の重さや手続きの適正さも問われるため、事案により有効性の判断が異なります。
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この記事の執筆者
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